近年「無回転シュート」を聞く頻度が近年下がったと思います。一時期はサッカーの話題と言えば無回転シュートというくらいのトレンドであったのになぜでしょうか。今回は無回転シュートが減った理由や背景を自分なりにまとめてみました。
無回転シュートの歴史(ざっくり)
そもそも無回転シュートはいつごろ生まれ・流行ったのでしょうか?その歴史をざっくりまとめます。
まず生まれた時期は分かりませんでした。
ただ球技において「無回転のボールが不思議な軌道をする」ということは他競技でも当然のように使われているため、サッカーでもその現象の存在はかなり昔から知られてたと推測できます。
参考として無回転を利用した他球技の技術としては以下が挙げられます。
- 野球(ナックルボール)・・・1910年頃に誕生
- バレーボール(無回転サーブ)
黎明期
日本の無回転フリーキックのパイオニアとして有名なのは、三浦淳寛(現役期間:1994~2010)です。
日本代表の経験もある方です。
2001年からフリーキックで無回転シュートを実用し、得点をしています。
当時は「無回転シュート」という単語は存在せず、一般には「ブレ球」と呼ばれていました。
そんな中、三浦元選手の無回転シュートは「アツ・ボール」という愛称がありました。
全盛期
2006年のドイツW杯あたりから2010年の南アフリカW杯あたりが全盛期だったと思います。
有名なキッカーは、本田圭佑、C・ロナウドでしょう。もちろん他にも多くの使い手が生まれました。
この頃は無回転シュートがサッカーの「見どころ」として重視され、メディアも強調していたように思います。
実際、無回転シュートの映像は人を引き付ける不思議な魅力がありますね。
ではなぜ無回転シュートは広まったのでしょうか?
その答えは、サッカーという競技の特徴とそれを改善しようと変化したボールにあります。
それは後述します。
衰退期
2010年ごろから無回転シュートは徐々に減少します。
主な原因はボールの変化(に対応したプレーヤーの変化)で、2014年に開催されたブラジルW杯では直接フリーキックによる得点が半減し3点のみでした。以下は過去大会との直接フリーキックによる得点比較。
- ドイツ大会(2006年):6得点
- 南アフリカ大会(2010年):5得点
- ブラジル大会(2014年):3得点
フリーキックは無回転シュートが全てではないものの、その威力を潜めたことが数字からも読み取れます。
なぜ無回転シュートは増え、そして減ったのか
無回転シュートが増えた理由
まずサッカーという競技の性質上、ディフェンスが強くなかなか点が入りません。
なかなか点が入らない分、得点すると盛り上がるのですが、引き分けが多いのも競技・興行として望ましくないです。
ではサッカーという歴史の長い競技のルールを変えずに、点が入りやすくるためにはどうすべきか?
その答えとして目を付けられたのが「無回転シュート」です。
つまりブレやすいボールを使うことで、得点を増やすという選択が取られたのです。
明確にその方針を感じ取れるのは、2006年ドイツW杯の公式球「チームガイスト」の導入でしょう。
より真球に形状を近づけることで軌道がブレやすく、また無回転のボールを蹴りやすい(重心を捉えやすい)工夫がなされています。
「チームガイスト」がサッカーボールの基準になって以来、多くのプレイヤーが無回転シュートに関心を寄せ、習得をしました。
そして無回転シュートはサッカーの得点技術の中での存在感を急速に拡大しました。
「チームガイスト」の次のW杯公式球である「ジャブラニ」もこの系統を組み、無回転シュートが蹴りやすい球を目指して開発されました。
が、やりすぎたようで多くのプレイヤーから低評価を受けます。
具体的には、キック感がこれまでのボールと異なりコントロールが難しい、ゴールキーパーからすれば無回転シュートの不規則な軌道がより顕著で対処が難しい、といった具合です。
これくらいの時期から、観戦する側でも無回転シュートを疑問視する人が増加したのではないでしょうか?
無回転シュートが減った理由
無回転シュートはなぜ減ったのか?私なりの予想を以下に書きます。
黎明期(2002年頃まで)は蹴れること自体に魅力があり、限られた人にしかできないスキルでした。
しかしボールが無回転シュートに寄り添いすぎた結果、大げさに言うと「ありふれたスキル」となってしまいました(とはいっても、誰でもホイホイ、と言うわけではないですが)。
無回転シュートを蹴りやすくなったので、残される技術要素は、「ゴールの枠内に入れる」というざっくり要素のみです。ボールの軌道は読めない・制御できないので細かいコントロールは不要です。
(普通のフリーキックでは細かいコントロール技術に加えて、相手の壁や蹴る角度から狙うべきコースを考える要素があります)
このような無回転シュートに
「サッカーとしての技術的な要素・競技としての魅力があるのか?」
ということに多くの人が徐々に気づき始めたのだと思います。
無回転シュートが「悪」なんてことはないですが、サッカーの本質と違う部分が強力になりすぎてしまった感はあります。
選手vs選手ではなく、いかに無回転のボールを蹴るかという発表会に、、、
プレイヤーから(主にゴールキーパー)の不満は、ジャブラニで爆発し、明確に無回転シュートの全盛期は終わりを迎えたように思えます。
その反省を生かしてか、ジャブラニの次のW杯公式球ブラズーカは開発に2年半を費やし、世界トップレベルの選手600名によりテストされました。
さいごに
サッカーの魅力である得点が入った際の「歓喜」の頻度を増やそうとした結果、増えた「無回転シュート」。
間違いなくサッカーの歴史に刻まれるブームだったと思います。今後はどのような新しい技術・戦術が生まれるのでしょうか。また無回転シュートのブームは来るのか楽しみです。
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